声優 中嶋 将平

声優は役者の一員なんだ、声優の仕事も相手と掛け合い全身を使って芝居をするものだということを痛感し、現場に臨む思いが変わっていきました。

テレビ局で技術の仕事をしていた頃、カメラやマイクの向こうでパフォーマンスするアナウンサーや役者さんの仕事がいつも面白そうに感じていました。思い返してみると、子供の頃は発表会で台本を作って演じたりするのが好きでした。もう忘れていたそんな感覚が蘇ってきたのかもしれません。ある日、一緒に仕事をしたアナウンサーの方が、僕の声を柔らかくて良い声だと褒めてくれました。時は第三次声優ブーム。声優がメディアを通じて活躍の場をどんどん広げていた頃です。声優学校が次々と開校し、書店には声優になるための本が並んでいました。その内の一冊を手にした僕は、絶対に声優になるんだと決意し、その本に紹介されていた東京アナウンス声優アカデミーに入学することにしました。それまでまともな演技経験はありませんでしたが、授業で自分の順番が回ってきて、声と身体で何かを表現してみせるのが楽しくて仕方ありませんでした。

声優学校を出てプロになるのは大変なことですが、プロの声優として活躍するのはもっと大変なことです。これは社会のどんな仕事でも同じですが、お金をいただくためには、それに見合った仕事が出来なくてはなりません。いい結果を出したいと思いつつも、初めのうちは現場で何をどう頑張ればいいかが見えてこず、緊張して空回りすることが多かった気がします。そんな時、声優仲間と芝居や朗読劇を演じるチャンスを得ました。そこで声優は役者の一員なんだ、声優の仕事も相手と掛け合い全身を使って芝居をするものだということを痛感し、現場に臨む思いが変わっていきました。役者として作品の役柄を掴み、共演者のセリフをよく聴き、最大限の演技をしていく。それはナレーションの現場でも同じことでした。すると今度は迫力の必要なシーンで発声が頼りない、強い意志が感じられないなど、パフォーマンスに追いつかない肉体、精神に気付かされました。日常生活で役者として鍛錬を続けなければならないということを実感しました。

縁があって最近では声優学校や女子大で講師の仕事をさせていただくようになりました。自分の経験から得た、声優といえども全身を使って演技するということを教えています。子供の頃に好きだった台本作りも活かし、生徒の男女構成比や人数、経験値に合わせて自分で台本を書いています。いずれ舞台の脚本、演出にも挑戦していきたいと思っています。もちろん吹き替えの現場で教え子と共演するのも夢です。その時に恥ずかしい姿を見せるわけにはいきません。講師として教えながら、役者として自分も成長していかなければなりません。人は歳を重ねるにつれ様々な経験をしていきます。それが芝居の深さとして表現できるような味のある役者になっていけたらと思っています。

講師の目で生徒を見ていると、生き生きとしている人、悩んでいる人、一緒に芝居をしてみたいと思わせる人、なんだか放っておけないタイプなどなど、手に取るように分かります。でもそれは生徒の立場だった時には無我夢中で分からなかったものです。今声優を目指している人は、頑張っていることを必ず見ていてくれる人がいることを忘れないで下さい。これは逆に言えば、手を抜いていることも見抜かれてしまうということです。「自分をこう見せよう」と飾り立てるよりも、「いつ見られてもいい自分」になっていきましょう。

声優を目指している間も声優になってからも、思うようにいかず落ち込むことがあるかもしれません。でも声優学校に入学した時のキラキラと輝く夢を決して忘れなければ、きっと前に進んでいけるはずです。お互い頑張っていきましょう!