声優 西口 有香

役の大小ではなく、誰かの人生を背負っている重みを感じながら、真摯に演じたいと思っています。

小学校四年生の時「将来の夢」というテーマで作文を書く事になったのですが、なりたい職業が沢山ありすぎて一つに決められないと悩んでいた所、思いついたのが俳優という職業でした。俳優なら本来は一度しかない人生を別の人間になって何度でも生きられる、様々な職業を演じられる、と思いついたのです。

そんな時、テレビで神谷明さんが「声優」の仕事についてお話しされているのを偶然拝見し、「これしかない!」と思うようになりました。声優なら、自分の容姿や年齢、性別に関わらず、果ては人間でないものまで幅広く演じられると思ったからです。当時はまだ声優という仕事が一般的ではありませんでしたので、先述の作文に「声優」と書いたのはクラスで私一人だけでした。担任の先生が「珍しい職業を見つけましたね」と褒めて下さり、それがとても子供心に嬉しかったのを覚えています。そこから声優という職業について本格的に調べ始め、幅広い活動内容にますます魅力を感じる様になりました。

デビュー当時は自分と歳が近い学生の役が多く、性格も大人しい子が多かった様に思います。今も勿論若い役をやらせて頂く機会は多いのですが、以前は苦心して演じていた先生やお母さん等の大人のキャラクターも、合っていると仰って頂く事が増えました。「悪役」を振って頂く事も増え、物語を背負う責任と演じることの難しさを感じながら、収録に臨んでいます。声優を目指したきっかけは「どんな役でも演じられる」でしたが、実際はなかなか思い通りに演じられない事もあり、まだまだ勉強の途中だと痛感します。それでも少しずつ役の幅は広がり、夢に近づけているのではないかと思っています。お仕事の種類としては、最近はゲームの収録が増え、一人でマイクに向かって演じることも多いので、掛け合いとは違った難しさを感じています。相手がどんな風に台詞を言うのか、推理と計算と直感を駆使しています。勿論ディレクターさんのお力もあってですが、完成した作品を確認して、その場で会話しているように上手く噛み合っていた時の達成感は、かけがえのないものです。

来年アナウンスアカデミーを卒業して二十年、デビューして二十周年目を迎えます。バリバリ活躍している同期も沢山いますが、辞めて行ってしまった仲間達が大半です。目まぐるしく入れ替わるこの業界で、二十年も続けていられるのは、支えて下さるスタッフやファンの皆様がいらっしゃるからです。その感謝を忘れず、この先更に二十年、四十年と続けて行くことが目標です。生涯現役として、一人でも多くの役、一つでも多くの作品、一言でも多くの台詞に関わって行きたいと思っています。先日ディレクターさんに「西口さんはいつも全力だね」と仰って頂きました。私は一言しか喋らない役も、何千何万という言葉を紡ぐ役も、同じ重さで演じているつもりです。その作品の中でその人物はたまたま一言しか喋らなかったとしても、その人物自身は自分の人生をしっかり生きているはずです。だからこそ役の大小ではなく、誰かの人生を背負っている重みを感じながら、真摯に演じたいと思っています。それが役者として正解なのかはまだ分からないですが、今の私の目標であり、理想です。

私が生まれて初めて演技を学んだのはTAAでした。その後も色々な場所で演技を学ぶ機会はありましたが、やはり根幹となるのは最初にTAAで学んだ事です。講師の先生には本当に沢山の事を教わりましたが、中でもとりわけ心に残っている言葉が二つあります。一つは「役者は箸の上げ下ろしをする時も芝居の事を忘れてはいけない」。どんな場面も感情も俯瞰して見、役に活かせる様に吸収しろという事です。もう一つは私個人に掛けて下さった「あなたは後ろにいていいのよ。後ろにいて輝く人もいる」という言葉です。芝居はアンサンブルなので、適材適所。脇にいてこそ輝く事もあると、教えて下さった一言です。この二つの言葉があったからこそ、こうして今も続けていられるのだと思います。声優を目指し学ぶ中で、そうした自分の指針となるキーワードをキャッチできる様、是非アンテナを張ってみて下さい。そしてもし現場でお逢いすることがあれば、そのキーワードをこっそり私にも教えて頂けると幸いです!