ナレーター 髙橋 高城

その場の要求に応じて自分の引き出しを開け、表現を考え、構成を組み立ててしゃべる醍醐味。

実は、私は声変わりをしたという経験がないんです。物心がついた頃から友だちよりも声が低くて、みんなと同じ音階で歌を歌えなかったり、その一方で声が大きいために怒られたり。自分の声が好きになれずに悩んでいました。それが高校で応援団に入って、声を活かせる場所に出会ったという感覚を持ち、コンプレックスを克服できたんです。そのころは将来ナレーターになるとは夢にも思っていませんでしたが、転機でしたね。


声の仕事を意識しはじめたのは、大学の就職活動の時期。自分の長所は声なので、それが仕事になれば一番いいと考えました。もともと字幕より吹き替え版で洋画や海外ドラマを観ることが多く、次第に声優や吹き替えの仕事を志望するように。インターネットで調べて、当時あこがれていた声優さんが所属する事務所に卒業生を輩出している、東京アナウンスアカデミー(当時)を知り、入学を決めました。


声で表現することには、やればやるほどハマっていきました。即興の芝居などをすると、それまで感じたことのないエネルギーが自分の中から湧き出てくる。どんどん虜になっていきましたね。心にグサッと刺さったのは、洋画のアテレコの授業で、先生に「自分の得意なところでしかやってない」と言われたこと。自分が楽な音域やトーンでしか声を出しておらず、それでは「表現」にならない、とのことでした。それ以来ずっと、役に相応しい声や表現を考えるよう肝に銘じています。また、今も一流の声優である先生との出会いは大きかったです。「役者は訓練しつづけ、そのなかで自分の表現を磨いていかなければならない」という、芝居への真摯な姿勢を教わりました。学内オーディションはこの先生が所属する事務所と大手の2社に合格。どちらにするかとても悩みましたが、この方のもとで、もっと勉強したいという思いが強く、今の事務所に入りました。


ナレーションは、声優と比べると、表現し過ぎないことが大切です。アニメや吹き替えは自分の内にある感情を解放したり、ひとつのニュアンスを誇張したりしますが、ナレーションの場合はアナウンスメントに近い読み方がベースで、表現を抑えた方がうまくいくケースが多い。商品を売り込む際に「いいものですよ」とやり過ぎると嫌味になってしまいます。商品名を耳に残すための音の響きやトーンが求められる訳です。また、ナレーションは当日に現場で台本を渡されることが多いので、初見に強くないといけないですね。その場の要求に応じて自分の引き出しを開け、表現を考え、商品コピーを強調するための構成を組み立てて話すのは難しくもあり、醍醐味でもあります。OKが出ると、やりきったという充実感を感じますよ。


声の仕事は志望者が多く、高い競争率になっています。だからといって、自分が勝ち残っていこう、競争相手を打ち倒していこうという考えでは、この先が辛いと思います。私が最も大事だと考えるのは、共演者やスタッフなど、巡り合った人たちとの関係を大事にすること。決して恵まれているとは言えない条件下でみんな一所懸命やっている。そんななかで芸事がもっと振興していくには、みんなが力を合わせることが必要でしょう。業界が大きくなれば、やがていろんな形で自分に返ってきます。一期一会を大事にする世界になってほしいですし、そんな仲間になってほしいと思います。